環境DNA測定を行う際、フィルタリングする水の量は多ければ多いほど検出感度が上がり、検出される魚種も増える事はイメージできると思います。
 しかしながらフィルタリング量を増やせば時間と手間がかかりますし、フィルターが目詰まりして多くをフィルタリングできない事が良くあります。そこでどの程度の量の水をフィルタリングすればよいかの目安として、①作業性の観点と②メタバーコーディングにおける検出種数の観点からの参考情報を紹介します。

作業性の観点

 2020年8/26に環境DNA学会主催の「採水・濾過」関係のセミナーがあり、経験豊富な北大の荒木先生がフィルタリング量の目安として以下を示されていました。

ステリベクスを使う場合
沼や池・水たまりの場合・・・  50~250mL
湖や河川の場合    ・・・ 250~500mL
海(沿岸)      ・・・ 500~1000mL
海(沖)、湧き水   ・・・  1L~10L

ガラスフィルタを使う場合はこれよりも増えます。

 私も沖合の海以外はいろいろな場所でステリベクスでフィルタリングしていますが、以前から上記の量でフィルタリングしています。と言いますのも実際これ以上の量をフィルタリングするのは不可能に近いので、可能な限りの量を使用していると言ってもよいかと思います。 

検出種数の観点

 メタバーコディングする場合の検出種数とフィルタリング量の関係はパシフィックコンサルタンツさんが公開している資料が参考になります。この資料によると(キアゲン法で抽出した場合は)図-1のような関係になっています。この結果からフィルタリング量が1Lで検出種数は上限に達していると結論付けています。

図-1.メタバーコーディング時のフィルタリング量と検出種数

 ここで以下個人的な意見になりますが。
 例えばこのサイトで紹介しているビリューチップ(BC)法やキアゲン法でBuffer-AEの量を変えた場合等、他の方法や条件で作業する場合は横軸をフィルタリング量ではなく濃縮率で考えると物理的なイメージと合うのではないかと考えています。そこで図-1の横軸に濃縮倍率の対数を取ると図-2のようになります。この図から比較的綺麗な直線に乗っている事がわかると思います。

図-2.メタバーコーディング時の濃縮倍率と検出種数
(抽出液の量を学会マニュアル通りの200uLと仮定)

 そこで独自に近隣3か所で採水した水をBC法とキアゲン法で抽出し、メタバーコーディングでの検出数の平均値を求めてみました。この時BC法は10mLをフィルタリング&20uLで抽出(濃縮倍率500)、キアゲン法は200mLをフィルタリング&100uLで抽出(濃縮倍率2000)でした。その結果、2つの抽出法共に図ー2の線に乗っている事がわかり、検出種数は濃縮倍率に依存すると言う考え方を後押しするデータになりました(1点が乗るだけならたまたまですが、濃縮率の違う2点が乗っていたことがポイントと思います)。この結果は追って詳しく公開する予定ですのでデータはその時点でこちらでも公開します。

 以上フィルタリング量を決めるにあたっての参考になればと思います。