環境DNA測定に於いて、使用する機器(ここではバケツやフィルタリング器具等)に付着していたDNAが、一連の作業中に混入(コンタミ)することを避ける必要があります。さもないと本来いないはずの種がPCR(orメタバーコーディング)で検出され、異なる結論を導き出されてしまいます。

このコンタミを避けるため再使用する器具は次亜塩素酸ナトリウム(商品名で有名なのはハイター)で洗浄することを学会のマニュアルでは進めています。ここではこのハイター洗浄法に関しての情報を記載します。

まず次亜塩素酸ナトリウムとは化学式でNaClOで、次亜塩素酸(H-O-Cl )とナトリウム(Na)の塩であり水溶液は塩基性(アルカリ)です。これは酸化作用、漂白作用、殺菌作用があり、家庭でも茶渋とりやカビ取りに良く使用されます。いかにもDNAを分解してくれそうな気がします。ちなみに塩素酸はNaClO3、亜塩素酸はNaClO2で次亜塩素酸がNaClOとなります。

このハイターを使用してバケツ等を洗浄し、DNAのコンタミを(分解して?)洗い流すのですが、学会のマニュアルによると塩素濃度0.1%以上の液に5分以上漬けることとしています。ハイターの次亜塩素酸ナトリウム濃度は工場出荷時は6%ですが時間とともに濃度が下がるためメーカー(花王さん)のWebサイトでは次のような表を希釈目安としています。

ハイターの希釈目安
(花王HPより抜粋 https://www.kao.com/jp/qa/detail/18916/)

このハイター液に漬けた後、水道水ですすぎ次に蒸留水ですすいで使用するとマニュアルには書いています。
ただ個人的には乾燥させた方が安心だと思っています。それは次亜塩素酸ナトリウム水溶液が蒸発する時に酸素を放出し塩化ナトリウムになってしまうからです(化学式がNaClOなので何となく想像つきます)。塩化ナトリウムが混ざっても抽出以降の工程に問題はありません。なぜなら海水でもちゃんとDNA検出できるからです。逆に乾燥させないで使い、もしNaClOが混じっているとDNAを分解する恐れがあります。

ですので洗浄後はちゃんと乾燥して使う事がお勧めです。問題は何か所も現地を回って採水する時のバケツの処理方法です。マニュアルでは泡ハイター(ハイターに界面活性剤を入れたもの)を使って洗浄することになっています。この泡ハイターは現地で洗浄するには便利ですが、界面活性剤がどのような影響を及ぼすのか、また乾燥しないで大丈夫なのかはちょっとデータを見ていないので分かりません。近いうちに実験を行いここでupしたいと思います。

ところで、ハイター洗浄を続けていると容器が白くなることがあります(下の写真)。

どうもこれはハイターの成分が(水中の?)カルシウムと反応し炭酸カルシウム(CaCO3 )ができて容器に付着しているようです。調べてみるとポリプロピレン(PP)製の容器に発生することが多いようで、ひょっとしたらPPに増強剤として混入されているCaの反応かもしれません。

いずれにせよ次回使用する時に綺麗に洗浄したいものです。そこでこの洗浄方法として、上左側写真のカップを食用酢の1/4希釈水に1時間ほど半分漬かるようにして置いておきました。結果は次の写真の通りで漬かった部分だけ見事に綺麗に洗浄できていました。

これは恐らく次の反応が起こったものと考えられます
 「CaCO3 + 2CH3COOH → (CH3COO)2Ca + CO2 + H2O」
これは家庭にあるクエン酸でもできると思います。試してみてください。