環境DNA測定時のフィルタリングで使用するカートリッジフィルタ(注)は一見すると簡単な構造のようですが、実は目につきにくい部分で優れた構造になっています。

注)ステリべクス(孔径0.45um、SVHV010RS、メルク・ミリポア社)

ステリベクスの拡大写真
ステリベクスの構造

 上の写真のように円柱状のフィルタの側面は親水性のフィルタで、環境DNA測定では穴径0.47umのものを使っています。一方円柱の上部は撥水性のフィルタになっていて穴径は0.1umのものを使用しているようです。

 ご存じのように水中を濾過しようとすると親水性のフィルタが必要であり、環境DNA測定ではミトコンドリア等を捕集する必要があるので穴径は1um以下が必要になります。この穴径の小さい親水性のフィルタは一旦水がついて湿ってしまうと空気はなかなか通りません。通そうとするとかなりの圧力が必要です。

 そのためシリンジの差し替え時等、フィルタが湿った状態で空気が入ってしまうとその空気はなかなか抜けません。この空気を抜くために撥水性のフィルタが上部に付いていて、上部に上がった空気をゆっくりですが排出しています。排出先は下面(上右写真排出口側)の空気穴から抜けていきます。

 撥水性のフィルタの穴径が大きいと、濾過時に圧力が抜けてしまうので穴径を小さくしていると考えられます。穴径が小さくても圧をかけると空気は徐々に抜けるので、最後にステリベクス中のサンプル水を抜くときは強めに押して水を親水性のフィルタを通していっきに抜く必要があります(ステリベクスでの濾過の動画参照)。

 このような構造が故、
・ステリベクスは排出口を下に向けてフィルタリングする必要があります。
・また抽出液やRNALaterをステリベクスに注入する時は(排出口を塞いでいても)下写真のようにピペットチップの先端を奥まで押し込んで注入しても大丈夫です。

ステリベクスに抽出液等を注入する時は注入口に先端を押し込んでも構いません

 もう少し掘り下げて知りたいと思い、ステリベクスを分解した写真を下に示します。実はプライヤー2本で簡単に分解できました。

この写真はフィルタを剝ぎ取った後のもので、二つの写真は若干角度を変えて撮っています。円周上に溝が切ってあり、この溝を通って濾過された水が集まり、排出口に流れるようになっています。よく考えられていると感心させられます。これは射出成型で作っているはずですが、3つ割り以上の金型を使っているはずで、かなりの成型技術がないとできないものだ思います。