環境DNA測定ではいかに(簡単に)効率的にDNAを抽出するかが大きなポイントとなります。効率的と言うのは採水してから抽出するまでにDNAがなるべく分解しないようにすること、サンプル水中にあるDNAをなるべく抽出液に移す(抽出効率)事を意味します。抽出効率に関しては別途比較実験をいくつか投稿していますのでご参照下さい。

ここではDNAがなるべく分解しないようにすることを考えたいと思います。最も分解しない方法は採水後すぐに濾過・抽出することになりますが、今回これを基準と考えます。しかし採水地点と抽出地点は多くの場合別の場所であり、輸送に時間が掛かります。そこで水を輸送する場合オスバンを入れればよいことが学会法マニュアルで書かれていますし、「オスバンの効果」の投稿でも書きました。濾過したフィルタを輸送する場合RNALaterを入れればよいらしいです(マニュアルによりますがデータは見たことがありません)。

では、濾過したフィルタを冷凍して輸送するとどうかるかを知りたくて実験してみました。

まず実験用サンプルとしてニジマスの水槽水を純水で5倍に希釈した水を使って
A:濾過⇒すぐに抽出⇒すぐにPCR(これが基準)
B:濾過⇒冷凍で約12h放置⇒抽出⇒すぐにPCR(今回知りたい値)
C:水を冷凍⇒冷凍で約12h放置⇒抽出⇒すぐにPCR(単なる興味)

条件は
 ・ステリベクスによる濾過量(100mL)
 ・簡易(HS)法による抽出
 ・KAPA 3G Plantを使用した試薬を使用
 ・PicoGnen-PCR1100 による増幅

結果は各n=2のCt値の平均でA=35.2、B=35.8、C=35.3

 ステリベクスを冷凍すると検出量が減るのかどうか微妙なところで、もう少しn数を増やした実験が必要とは思いますが少なくとも冷凍で大きく検出量が減る事はなさそうです。
 仮にこれが誤差範囲で冷凍しても変わらないと言うことであれば、①現場で濾過⇒抽出⇒PCRまでする、②オスバン添加水を持ち帰って8時間以内に冷凍後抽出する、③オスバンを入れずに冷凍後抽出する、では同じ感度の測定ができると言うことになります。

このあたり皆様の結果等あれば教えて頂ければ幸いです。

追記
 2020年8/26に環境DNA学会主催の「採水・濾過」関係のセミナーがあり、「フィルタの冷凍による影響」に関する質問がありました。
 回答として「4~5年は冷凍保存しても検出結果には影響はなさそうだ」と言うことでした。学会の主な役員が質問毎に適任者が対応されていましたので学会の総意と考えていいと思います。
 ただ検証したデータは無いようでしたのでデータをお持ちの方は教えてください。