メタバーコディングする場合のフィルタリング量(ろ過量)と検出種数の関係はパシフィックコンサルタンツ(PCKK)さんが公開している資料が参考になります。この資料によると(キアゲン法で抽出した場合は)図-1のようにフィルタリング量と共に検出種数は増えるとしています。このような結果は別の論文(Miya at.al.,2016等)でも報告されています。PCKKさんの資料では1L程度で検出種数は上限に達していると結論付けていますが、恐らくこの上限の数値は採水場所によっても変わってくると思われます。外洋の水の場合は数10Lとかの多量の水をフィルタリングしないといけないようです。

ここで以下個人的な意見になりますが。
例えばこのサイトで紹介しているビリューチップ(BC)法やキアゲン法でBuffer-AEの量を変えた場合等、他の方法や条件で作業する場合は横軸をフィルタリング量ではなく濃縮率で考えると物理的なイメージと合うのではないかと考えています。さらに図-1の横軸に濃縮倍率の対数を取ると図-2のようになります。この図から比較的綺麗な直線に乗っている事がわかると思います。

(抽出液の量を学会マニュアル通りの200uLと仮定)
そこで独自に以下二つの実験を行いました。
【実験1】
近隣の河川で採水した水をBC法とキアゲン法(学会法)で抽出し、メタバーコーディングを行って検出種数を比較しました。表-1に示す条件で共に4回のろ過・抽出を行っています。結果も表ー1に示しますが、ろ過量は10倍ものさがあるにもかかわらず、ほぼ同等の検出種数が得られました。つまりフィルタリング量が違っても濃縮率が同じであれば同程度の検出種数が得られたことになります。
ここで若干キアゲン法の検出種数が多く見えますが、純水をろ過・抽出したところキアゲン法ではコンタミにより2種が検出されてしまいましたので(BC法はゼロ)、この差はコンタミの差の可能性もあり、ここでは両方の検出種数に差が無いと考えました。

【実験2】
近隣3か所で採水した水をBC法、キアゲン法(学会法)、簡易法で抽出し、メタバーコーディングでの検出種数の平均値を求めてみました。この時の各方法の濃縮倍率は以下です。
BC法は10mLをフィルタリング&20uLで抽出(濃縮倍率500)、
キアゲン法は200mLをフィルタリング&100uLで抽出(濃縮倍率2000)
簡易法は200mLをフィルタリング&500uLで抽出(濃縮倍率400)
でした。ここで得られた各抽出法の濃縮率と平均検出種数の3点は図-2の直線に乗っていました。1点が乗るだけならたまたまですが、濃縮率の違う3点が乗っていたことがポイントと思います。(詳細は追ってアップします)
以上二つの実験とも、検出種数は濃縮倍率に依存すると言う考え方を後押しするデータになりました。このことからフィルタリング量ではなく、濃縮倍率が非常に重要である事がわかります。
この結果を別の観点から考察すると、BC法はフィルタリング量が少いですが、濃縮率を同等に保てばキアゲン法と同等の検出種数が得られることがわかります。このことから種特異的検出に於いて、非常にeDNA量の少ない(検出限界に近い)サンプル水でもBC法はキアゲン法と同等の検出限界を持つと想像できます。