環境DNA測定時に使用する全く新しい濾過・抽出法です。まだ最終形状ではありませんが、想定通り簡単に短時間(3分程度)で処理ができ特段のスキルも不要なのにもかかわらず、学会マニュアルの方法の1/20程度の濾過量でほぼ同程度のqPCR結果が出ることが確認できました。またろ過量が極端に少ないにも関わらずメタバーコーディング時の検出種数も同程度です。ここでその手順を紹介します。

ここでは手順だけに留め、詳しい原理や学会マニュアル法との性能比較は追って投稿します。
(論文が公開されましたので性能等はこちらも参照ください)

まずこのBC法では下写真のようなビリューチップ(Biryu-Chip)を使用します。

Fig.1 ビリューチップのプロトタイプ

濾過~抽出の手順は次の通り簡単です。

  1. Biryu-Chipをセット後(Fig.2)シリンジ(例えば10mL)をもちいて所定量を吸い込みの注入口に注入し濾過する(Fig.3)
  2. シリンジを一旦外し、空気を吸い込んだ後Biryu-Chipの注入口に注入しチップ内の水を排出
  3. 抽出口に貼ったシールを剥がし、抽出液(20uL)をピペッターで注入し2分間待ちます(Fig 4)
    ここで使用する抽出液はこのサイトで紹介している簡易抽出法で使用している試薬(A)です
  4. 抽出口から抽出液をピペッターで吸い込みマイクロチューブに移しかえる

 次の動画も参照ください。

 以上で完了し、この液をそのままPCRに掛ける事ができます。ただしこの抽出法には洗浄工程がありませんので夾雑物が多いサンプルの場合、夾雑物に強いPCR酵素が必要になります。これまで簡易抽出法で多くの場所のサンプルを処理していますが、KAPA 3G Plantを使用すればほとんどの場合問題なく増幅しています。このことからBC法でも同様に検出できるものと考えています。

 学会のマニュアル法と作業手順の比較をマンガにするとFig. 5のようになり、いかに簡単かが分かると思います。

Fig.5 学会マニュアル法との手順比較

この方法で学会マニュアル法とPCRの感度を比較した場合、BC法10mLの濾過でマニュアル法200mLの濾過とほぼ同濃度の抽出液が得られています。またチップの中で濾過から抽出が完結するためFig.5にも書いていますが、コンタミネーションの危険性が非常に低くなります。

 今後の環境DNA技術の社会実装に向けてこのような短時間で簡単に測定ができる方法が必要になるのではないかと考えています。

 またこの方法で必要な機器が少ないためFig.6のようなモバイル環境DNA測定キットができます。実際にこれを使用してOn-Siteで環境DNA測定を行った結果は測定例に記載しています。

ビリュー式環境DNA検出キット
Fig.6 On-Siteで環境DNA検出ができるキット。

 最後に、この濾過抽出には微細流路を使用していますが、モバイルPCR装置PicoGenePCR1100も微細流路を使用ています。将来はこの2つの技術を組み合わせて濾過からPCRまで一つの流路チップの中で完了する、自動環境DNA測定装置ができればと夢を見ています。