以前の投稿で、環境水に含まれる夾雑物によってPCR阻害のみならず抽出阻害も発生することを実験データと共に示しました。PCR阻害はPCR前に標準物質を入れること、もしくは抽出液を薄めることで阻害の有無とその程度を推測できますが、抽出阻害については環境DNA学会等ほとんど議論されていないように思います。

 そこでこの抽出阻害に関して、「阻害が無かった時の値に補正できる」事を示すデータを入手しましたので紹介します(入手元は(株)ゴーフォトンさん)。

 実験として川・池・海の水を採水し、それぞれにニジマスの水槽水(環境DNA)とカツオを溶かした水(内部標準※)をスパイクし学会法(ステリベクスを使用)と簡易法で抽出し、平行して純水に同量をスパイクたものを二つの方法で抽出しています。その後各地の水のPCR後のCt値差(下図の横軸)と、純水のPCR後のCt差(下図縦軸)とをプロットした図が下のグラフです。
 ※粉砕したカツオの肉を水に溶かし濾過した濾液

各地の水と純水でのスパイクしたマスとカツオのCt値差

 図から分かるように原点を通る直線になっており、傾きもほぼ1となっていますので次の関係があると言えます。

 [ニジマスCt値@純水]ー[カツオCt値@純水]=  [ニジマスCt値@現地水]ー[カツオCt値@現地水]

 通常知りたいのは阻害のない時の環境DNAの値ですので[ ニジマスCt値@純水 ]が求めたい値です。つまり

  [ニジマスCt値@純水]= [ニジマスCt値@現地水]ー[カツオCt値@現地水]+[カツオCt値@純水]

 となり、内部標準を濾過前にスパイクしておけば阻害のない時の環境DNAの測定値が求められるという考え方です。

ここで常に一定濃度の内部標準を準備することにより、まず現地水測定時にカツオのCt値をみて阻害の有無を判断し、阻害があれば上の式で補正することにより常に阻害が無かった場合の測定値が得れらると言う事になります。

 カツオが内部標準に適しているかどうかは置いておいて、濾過前に内部標準をスパイクして測定するという考え方は今後の環境DNA測定に非常に重要なポイントとなるように思います。