先の投稿「水質による環境DNA測定結果の変動について(1)」で環境DNA学会のマニュアルにある方法で測定した場合でも、環境水の水質により測定データが一桁以上ばらつく可能性があるということを説明しました。またこのバラツキの原因はPCR増幅工程での阻害だけが原因ではなく、前処理(フィルタリング&抽出)でも阻害が発生していることを示唆する実験結果を示しました。
今回はより確実に阻害発生場所の切り分けができる実験を行いました。
実験は下図のようなイメージです。
実験及び結果
【実験①】
「水質による環境DNA測定結果の変動について(1)」と同様に海水魚の肉片を溶かし濾過した水を用意し(ここでは海水魚水と呼び無色透明)、相模川の水と純水にこの海水魚水を等量スパイクした試験水を学会法(ステリベクス使用)にて抽出後ディスクトップ型PCR装置(StepOnePlus)で増幅しました。この時PCR試薬はKAPA 3G Plantを使用。結果を図-2に示します。
図ー2から相模川水と純水に等量のDNAが含まれているにも関わらず、相模川水の結果がCt値で4近く大きくなっていることが分かります。これは濃度が1桁以上違って出ていることになります。この違いが出た原因がPCR阻害なのかその前の工程の阻害なのかを切り分けるため、次の実験を行いました。
【実験②】
実験①の相模川水の抽出液と純水にそれぞれ等量のアジの鋳型をスパイクしたものを今回はPCR1100で増幅しました。
PCR増幅試薬はKAPA 3G Plant を使用。結果を図-3に示します。
なお、データは示しませんがアジの鋳型をスパイクしていない相模川水の抽出液からアジは検出されませんでした。
図-3の結果からどちらもほぼ等しいCt値が得られ、相模川水の抽出液がPCR増幅阻害を起こしていないことが分かります。つまり図-2の差はPCR増幅の前工程で発生していることが分かります。前工程と言うとフィルタリングと抽出になりますが、フィルタリングでこのような差が発生するとは考えにくいため恐らく抽出で阻害があったものと考えています。
なを参考までに、
学会法で採用しているキアゲンの抽出手順は別の投稿で詳しく説明していますが、「AL液+PBS+Pro-K」をステリべクスに注入し細胞等を分解してDNAを溶出させ、その後カラムで吸着し洗浄後に取り出しています。
別の実験になりますが、このカラム吸着工程の前で今回のような差が発生しているとの実験結果が出ています。