家庭でできる瞬間冷凍法
まず最初に余談から入りますがご容赦下さい。もし余談は不要な方は本論の「ステリベクスの冷凍」進んでください。
我が家では週末よくお酒を飲みます。このお酒のあてとして近くにある「角上魚類」という関東では有名になってきた魚屋さんに行ってよく大きなブリやタイを買って刺身にして食べます。またこれも近くにある「コストコ」に行って厚切り牛肉やサーモンを買って食べます。ただ一日では食べきれない量を買うので、残ったものは冷凍保管することになります。
この冷凍保管ですが、普通に冷凍庫に入れて冷凍するとドリップが出たりして解凍した時に味が落ちます。これはゆっくり温度が下がるのが原因で、対策として登場するのが瞬間冷凍法。今回家庭で簡単にできる方法を紹介します。
ご存じのように動物の細胞のほとんどは水ですので、約0℃で凍ります。水を0℃付近の氷点下に置いておくと氷の結晶がゆっくりと成長し、成長過程で細胞を壊すのでドリップが出ることになります。
少し難しくなりますが、氷(=水の結晶)ができる過程は核の生成と成長に分けられ、生成は低温で成長は高温(0℃付近)で起こりやすくなります(これは金属でもガラスでも同じです)。従って0℃付近に細胞を維持すると少量出現した核から大きく結晶が成長し細胞膜をつぶすことになります。逆に早く低温に持っていくとたくさん核が出現しあまり成長しないので細胞膜をつぶさずにすみます。
ちなみに美味しいチョコレート作りもこの結晶成長の原理を利用して手順が考えれれています。
ですので急速冷凍が有効になりますが、急速冷凍を行うには次の二つの方法があります。①低い温度(例えばマイナス60℃)に入れること。②熱の伝わり方を早くすること。この②は食材をアルミ板に載せる事で応用されていますが、今回はもっと強烈に熱の伝わり方を早くする方法です。
具体的には冷凍庫の温度(通常マイナス20℃付近)でも凍らない液体に漬け込む事です。この液体に最適なのは焼酎とウオッカです。お酒の凍る温度はアルコール度数によって異なります。そこでアルコール度数20の焼酎と度数40のウオッカを混ぜ合わせて家庭の冷凍庫の温度で半分程度凍る濃度に調整します。半分程度凍るというのはシャーベット状になっている状態で、液体の状態のものを使用するよりも融解熱の分だけ凍らせる量が増えます(つまり小さな容器ですむ)。
手順は以下です
①コストコで売っている「Press’n Seal」などを使用し材料を密封します。できるだけ空気を抜くことがコツです。
理由はアルコールに漬けるため材料を密封しないとアルコール漬けになってしまうからです。家庭用の真空パックも使えますが、使いまわしがしにくいという欠点があります。ここでタッパーなどの容器を使うと熱が伝わりにくいのでNGです。
②これをシャーベット状(写真左の状態)になっているアルコールに漬けるだけ。量(厚み)にもよりますが1時間くらいあれば凍っています。凍ったあとは速やかにアルコールから出してください。
初期投資&材料費はほとんどなしで味を落とさず保管できます。
新型コロナで自宅待機の期間、買い物に出かける頻度を下げるためにまとめ買いして美味しく冷凍するのもいいかもしれません。
環境水採水現場でのステリベクスの冷凍
余談が長くなりましたが、本論に入ります。
環境DNAの測定時、環境水をフィルタリング後DNA抽出までに移動等で時間がかかる場合、学会のマニュアルではRNAlaterを入れる事が推奨されています。これはフィルタについているDNAが分解酵素等で分解されないようにするためですが、RNAlaterを入れることでデメリットもあります。例えばマニュアルにあるキアゲン法以外の抽出の方法をとれば抽出効率に影響がでる可能性があったり(キアゲン法でも影響がでているかもしれません)、RNAlaterが高いとか排出の手間がかかる等です。
分解を抑制するためには、他にも方法があります。その一つが冷凍することです。ただ採水現場でフィルタリング後、その場で冷凍しようとするとなかなか大変と思われますが、ここで余談で書いた瞬間冷凍の方法が応用できます。
具体的には先ほどのシャーベット状になったアルコールを保冷箱に入れて持っていき、これにフィルタリングしたステリベクスをプラスティックパックにいれて漬け込めば簡単に冷凍できます。また氷をいれたパックも一緒に入れておけば氷点下にあることも常に確認できます。
簡単なテストの結果は以下の通りです。
写真のように発泡スチロールの保冷箱に保冷剤2ケを入れ、その間に500mLのサーモスの保冷ポットを置き、この中にシャーベット状のアルコールをいれたものを用意。
実験開始時のアルコールの温度はマイナス18℃。
07:00 実験開始
10:00 常温のステリベクス3本投入
18:00 アルコールの温度測定⇒マイナス8℃
測定時の最高気温は18℃で保冷箱は常に日光が当たる場所に置く。
今回はステリベクス3本のテストでしたが、温度的には余裕がありました。
ステリベクスの数が多くなれば保冷剤を大きくするか、アルコールを増やせば対応可能と思います。
ただし写真ではステリベクスをポリ袋に入れていますが、長時間おいておくとアルコールが浸透してくるのでそこは要注意です。
ここでは冷凍によるフィルタ内の環境DNA分解を抑制する方法を紹介しましたが、冷凍によりDNAが本当に減っていないのかどうかについては別の投稿で紹介します(結論はほとんど減っていませんでした)。
またRNAlater、冷凍以外の簡単な抑制方法の案もありますので、実験結果がでましたら投稿する予定です。